この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 ほら、とローデリヒ様が私の隣にそっと赤ちゃんを寝かせる。しわくちゃの顔をしていて、まだどっちに似るのかは分からない。
 産毛のように生えている髪の毛が金色なので、もしかしたらアーベルみたいにローデリヒ様に似るかも?

「やっと、会えたね」

 赤ちゃんに声を掛けると、ローデリヒ様が私の額に張り付いた髪を退けるように頭を撫でる。安堵した表情で、微笑んだ。

「お疲れ様。頑張ってくれてありがとう」
「……ローデリヒ様も手握っててくれて、ありがとうございま」

 お礼を言おうとして、ローデリヒ様の手を見たら、無意識に爪を立ててしまっていたみたいで、内出血で中々エグい色になっていた。血も滲んでいる。
 彼もやっと気付いたみたいで、苦笑しながら問題ない、と治癒魔法でアッサリ治していた。

 それにしても、16歳のアーベルが妹って言っていたから、てっきり娘が産まれるとばかり思っていたけど、息子は息子でまたすごく可愛い。
 ローデリヒ様も嬉しそうに、廊下で待っていたアーベルを抱き上げて連れて来る。

「アーベル。弟だぞ」

 もうすぐ2歳になるアーベルも、ただならぬ空気を感じていたのか、神妙な表情を浮かべていたけれど、赤ちゃんを見せられて目をパチパチと瞬かせた。

「おとーと?」
「そうだ。弟」

 ローデリヒ様がアーベルの手を掴んで、赤ちゃんの手へと誘導する。アーベルのちっちゃい手が、さらに小さい握り拳を握った。

 パァァァァっと顔を輝かせたアーベルは、キラキラとした目のまま、にまーっとローデリヒ様を見る。思わずローデリヒ様も頬を緩める。2人して無言でにまにましていた。
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