この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 けど、その穏やかな時間は長くは続かなかった。

「産まれたじゃと?!?!?!」

 国王様が飛び込むようにして、この部屋に乗り込んできたから。
 ハイデマリーさんも後ろから付いてきたみたいで、「あらまあ、はしたないわ」なんて言っている。あらまあじゃない。止めて欲しい。

「父上、静かにしてください」
「まだ2歳にもならないアーベル殿下ですら落ち着いているのに…」

 半眼になったローデリヒ様と、アーベルと一緒に待機していたジギスムントさんが苦言を呈する。ジギスムントさん、ちょっと言葉の刃鋭くない?とか思ったけど、国王様は気にもしなかった。真っ先に枕元まで飛んでくる。
 赤ちゃんを確認するなり、アーベルのように顔を輝かせた。

「よくやったぞアリサ!!」

 ありがとうございます、と私が言おうとする前にローデリヒ様が、ちょっと落ち着いて下さいと割って入る。
 だけれど、テンションが高くなってしまっているのか、そのまま海色の瞳に涙を溜めて、国王様は盛大に鼻水をすすった。

「無事にゔま゛れ゛でぎでぐれでよ゛がっ゛だ……っ!!」

 ボロボロと次から次へと涙を流す国王様に、ローデリヒ様は若干引いたようにうわあ、という顔になった。
 ハイデマリーさんからハンカチを貰って、盛大に鼻をかむ国王様に、ローデリヒ様は懐かしむように目を細める。
< 645 / 654 >

この作品をシェア

pagetop