この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 サラリと、栗色の髪が揺れた。可憐な容貌がイーヴォに向けられる。
 身長差で自然と上目遣いになったヴァーレリーの姿に、イーヴォはゾクリと背筋に震えが走った。


「このまま……って?」


 訳が分からない。けれど、イーヴォは蜘蛛の巣に絡め取られる羽虫のような感覚に襲われていた。


「奥方様に関わるから、ローデリヒ殿下は傷付いてばかり。無駄に思い悩んで、無駄に傷付いてる。
 奥方様がアリサ様でなければ――あの人はもっと幸せになれたんじゃないかって私は思う」


 イーヴォは無意識に張り詰めていた息を吐いた。
 そしてヴァーレリーの言い分に苦笑いをする。

 そりゃそうだ。確かにローデリヒは無駄に思い悩んで、無駄に傷付いてる、それは一番近くで昔から仕えているイーヴォが一番よく分かっていた。


「……まあ、そうだなあ。でもそれが恋ってやつだぜ?肝心の殿下本人は自覚なさそうだけど」


 そして目の前のヴァーレリーが、その気持ちを分かっていないという事に少々落胆する。
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