この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。【完】
 最初にトイレにこもった時、ローデリヒさんはオロオロしてた。私へ手を伸ばし掛けたけど引っ込めて、ゼルマさんに代わりにさすってやってくれと頼んでいた。


「レモン水を持ってきた。飲めるか?」


 トイレの床に座り込む私の顔を覗き込みながら、カップを差し出す。「少しづつ飲め」と慣れた手つきでカップを支えて飲ませてくれた。

 ちょっと酸っぱいけれど、美味しい。まだ残っていた吐き気が少しづつ和らいでいく気がする。


「とーたま!」

「ヨシヨシしてたんだな。偉かったぞ、アーベル。やはりお前は天才だ」


 ローデリヒさんはしゃがんだまま真顔で親バカ炸裂させて、アーベルくんの髪をわしゃわしゃと撫でる。言葉の意味なんて分かってないだろうアーベルくんは、キャッキャと高い声を上げてはしゃいでいた。

 美形二人、本当に眼福でしかない。
 ちなみに国王様もアーベルくんにメロメロのようで、ついでとばかりにイーナさんにちょっかい出している。

 元々イーナさんは側室で、今は五十代後半の子爵の後妻らしい。親子程の年齢が離れているけど、子爵は若妻にぞっこんらしくて、一歳半の娘ちゃんがいるんだと。
 赤ちゃん可愛いよね……。
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