「ねぇ、シェアしない?」
「優子、ちょっと」
さっきから、しつこいくらい呼ばれているのに、私は聞こえないフリをして小走りに下校する。
「優子!」
肩に手を置かれても、振り払って駆け出した。
怖いからだ。
怖くて仕方がない。
誰かが私に優しくし、それがすべて消し去られてしまうことが__。
「ちょっと!いい加減にして!」
前に立ちはだかった彩音。
でも私は脇を通り抜けようと身を屈めたけど、腕にしがみつかれ、その場に座り込んでしまった。
2人で息を弾ませ、二人羽織みたいに彩音が覆いかぶさってくる。
また私が、逃げないように。
「ちゃんと話しよ?」
「話すこと、なにもないから」
そっぽを向いて、無愛想に吐き捨てる。
彩音の顔を見ることができない。もし目を合わせてしまえばきっと、私は泣いてしまうから。
「優子にはなくても、私にはあるの」
なんとか私と目を合わそうと、顔を覗き込んでくる。
「向井くんのことも心配だし、優子のことも心配。おじさんのことも、色んなことが重なって、私は心配で仕方ないの。だって私たち、友達でしょ?」
「__友、達?」
「もちろん、私は優子に嫌われちゃったけど。今でも友達だって思ってる」
「彩音」
ようやく目を合わせた私は、涙を堪えていた。
ここで彩音に甘えてしまえば、今度は彩音が消えてしまうんじゃないか?
そんな思いに囚われていて。