「ねぇ、シェアしない?」


「ねぇ、覚えてる?」


肩から力を抜いた彩音は、優しい声で話し出す。


「私が中学の時にいじめられてた時も、こうやって同じことがあったよね?」


「あっ、そういえば」


記憶はすぐに蘇ってくる。


彩音が安奈にいじめられていた時、私はなんとか彩音の力になろうとした。でもきつく彩音に拒絶されたんだ。


それは、私までいじめられてしまうから。


そう彩音が気遣ってくれた。


「それって、今の優子と同じだよね?優子は私が傷つくと思って、私のことを避けてる。私もそうだったから分かるんだ。でもホントは嬉しかった」


そうなんだ。


ひとりに追いやられた私に、手を差し伸べてくれたかつての友達。乾いていた心が熱く潤った。


だからあのとき、私は安奈の注意をそらした。


別の『生贄』を安奈に差し出したんだ。


彩音を守ることに必死で、手段を選ばなかった。


その後のことなんか、なにも考えなかった。


まさか、あんなことになるなんて__。


私は長い間、彩音と顔を見合わせる。


当時の記憶の中なのか、今現在なのか、とにかくずっと見つめ合っていた。


「私、達実を取り戻したい」


「うん」


「大切な人だから」


「私も行くよ」


「でも__」


「優子は、私にとって大切な人だから」


彩音は、そう言って微笑んだ。


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