「ねぇ、シェアしない?」
えっ、彩音とシェア?
問いかけられた彩音も、絶句している。
「もし私とシェアしてくれたら、彩音の苦しみを全部、私が半分もらってあげるよ?もうなにも、苦しまなくていいから」
それは、天使のような柔らかい声。
でも実際は、悪魔の囁きなんだ。
「もう新聞配達することもないし、兄弟のご飯を作ることも面倒をみる必要もない。綺麗な制服を着ることができるし、お昼もお腹を空かせて水道水ばかり飲むこともないんだよ?毎日、お風呂に入れるし、臭いかもしれない?なんてびくびくすることもなくなる」
それは、今現在の彩音の苦しみだった。
「ご飯をお腹いっぱい食べられるし、お小遣いも使い放題。放課後に遊びに行けるし、欲しい服だって買える。周りの目を気にすることなく、暮らすことができるの」
私たちが当たり前にやっていることが、彩音にとっては当たり前じゃない。
夢に近いかもしれない。
その夢が、彩音の体の隅々にまで浸透していくのが、目に見えるようだった。
「__彩音?」
私が呼びかけると、彩音ははっと目を瞬(しばた)かせる。
呪いから、目が覚めたように。
ぐっと口を真一文字にし、彩音が私を見つめる。
そして強く頷いた。