「ねぇ、シェアしない?」
「なぁ、優子」
好きなひとの腕枕で微睡んでいた私は、これから達実が何を言うか、想像しなくても分かった。
「ここまで隠す必要、ある?」
「私は変に目立ちたくないの。達実には分からないんだよ、女子特有の嫉妬とか」
「彼女いるって言ったほうが、俺もムダに告られないで済むし」
さらっと言ってのけるところが、向井達実だ。
私たちは1年前から付き合っている。
『なんか、高梨っていいよな。俺と付き合わない?』
なんて軽ーいものだったけど、付き合っていくにつれ、達実が意外と真面目だったり優しかったり、その人となりに惹かれていった。
ただ、交際していることは内緒にしたいという条件つきで。
「俺の彼女ってバレるの、そんなに嫌か?」
少しふて腐れたような表情もカッコいい。
でも達実は分かっちゃいない。女子の恐ろしさと残酷さを、微塵も分かってない。私は1番の親友、彩音にだって隠しているくらいだ。
私たちのことは誰も知らない。
これからも、知られることはない。
平行線の話し合いを、達実の頬にキスをして終わらせる。
不服そうだった達実が、激しいキスを返してくるのを__私は薄っすら微笑んで眺めていた。
誰も知らない秘密。
その背徳感を楽しむように__。