「ねぇ、シェアしない?」


去っていく安奈の背中を呆然と見送る。


頭が膜を張ったように、思考が停止してなにも考えられない。


「大丈夫?」


舞香が助け起こしてくれた。


その向こうで彩音が、なんとも形容しがたい顔をしている。


「向井くんと、付き合ってたの?」


「それは__」


「それより今は落書きを消そう」と舞香がハンドタオルで机の上をこするけど、文字は取れやしない。


未だに事態についていけない私と、そんな私を見ようとしない彩音の間で、舞香が机にふわりとなにかを被せた。


「お弁当を包んである風呂敷。これで今は我慢して」


「__ありがとう」


チャイムが鳴り、担任の島谷先生が入ってきた。


「高梨、どうした?」


まだ立ち尽くしている私を不審に思ったのだろう。


全員が振り返っている。


その全員が、敵に思えた。


彩音でさえ、味方じゃないような__。


「優子、今は座ろう」


小声で舞香が言い、私の腕を引っ張ったので「なんでもありません」とだけ言って、椅子に座った。


朝のSHRが始まる。


どうしよう。


とんでもないことになった。


てっきり舞香が次のターゲットだと思ったのに、まさか私がいじめられるなんて。


足元から、世界が崩れ落ちていくような感覚だった。


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