「ねぇ、シェアしない?」


「うわ、きったねー!」


けらけらと高らかに笑う安奈を見て、約束なんてものは存在しないんだと知った。


「ブタ臭を洗い流してやるよ!」と教室から連れ出され、あの時のようにトイレに押し込められる。


「水ももったいないから、今日は特別に汚水を用意しましたー!」


いくつものバケツから漂っている、強烈な匂い。


あんなの浴びたら、匂いが体に染み付いて取れないんじゃ?


「もうやめろって!いい加減にして!」


押さえつけられている舞香が、泣き叫ぶ。


これまで歯を食いしばって、絶対に泣かなかったのに__。


「分かった。今度こそもうやめる。あんたがこの汚水、あいつにぶっかけたらね」


そう言うと、安奈はバケツを舞香に押しつけた。


「こっち側にきなよ。あんなウソつき、放っておいてさ。そしたらもう、いじめられることはない。いじめる側に立てばいいんだから」


またしても、安奈の言葉は闇に触れる。


涙の跡を濡らしたまま、舞香が私を見る目に浮かぶのは__怯えだ。


これまで一緒に戦ってきた親友を置き去りにすることへの、贖罪。


仕方ない。


私でも、そうするから。


だからいいんだよ。


薄っすら笑いかけながら、胸が張り裂けそうになる。


だから私は、目を閉じた。


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