喪失姫と眠り王子
「ありがと。いきなり呼んでごめんね」
「いいのよ、サラが急に仕事頼んだみたいだからお互い様」
「ほんと?まだ時間あるから家寄っていかない?」
「行こうかな」
「ちょ、いつ知り合ったの?」
「サラのお母さんだからそれで」
「そ、そうなの?」
「初めまして。よろしくね」
「よろしくお願いします」
サヨリの車に乗り、鬼輝の家に向かった。
車の中ではサラの昔のことについて話してくれた。
聞いてよかったのかは知らないけど。
「あの事件のことは大丈夫だったんですか?」
「本人は大丈夫って言ってるけど相当傷ついてたみたい」
「そうだよね。あの授賞式の動画見た事あるけど、残酷」
「うん。」
「サヨリちゃん!ここだよ!通り過ぎちゃう」
「あー。ごめん」
ゴンッ、急ブレーキで思いっきり頭を打った。
頭を抑えながら、家に入ると萌音と朴は快く迎えてくれた。
「突然すいませんね」
「いいえ。こちらこそ、娘がすいません」
「もし良ければこれ」
手渡したのは紫色の着物と薄い桃色に黄緑のは言った着物、グレーの良い着物と小さい袴が入っている。
「こ、こんな高価なもの!頂けませんよ」
「いえいえ。もらって頂かないと!あなた達のために作ったものなのに」
「えぇ!」
「要らないのなら捨てますが」
「いえ、ありがとうございます!」
それから2時間ほどお茶を飲んで会話し、帰ることになった。
「ありがとね」
「いいえ!その代わりに仕事ちょうだいね」
「分かったわ」
サヨリが帰ったあと、久しぶりに妖怪界へ向かった。
街は祭りが開かれており賑やかだった。
着物に着替えて城に向かうと、ニコニコした使用人たちが集まってきた。
「?ニヤニヤしてるのだ?」
「王さま!ちょっとこちらへ」
「えっ。」
手を引かれ向かった先は……透の眠る部屋の前だった。
あの日から中々入れなくなった。
入ると悲しくなるから。
襖の前に立ち止まっていると……。
「王さま……お入りください」
「っ。」
そっと襖を開くと、そこには祭り姿の透が眠っていた。
「着替えさせたんですよ!少しでも楽しんで貰えるように」
「っ、透……。」
静かに使用人は襖を閉め、部屋の中には鬼輝の啜りおとだけが響いた。
「透。絶対助けるからね」