あなたを好きだった頃、
 
朝、学校へ行く準備をしながら私は制服を着た西原くんを想像する。初めて西原くんを見た時は体育祭で、あれから西原くんと会えるのも週3回の体育の授業がほとんどだった。たまに廊下や集会の時にすれ違うけど、それも一瞬だから、私は体操服の彼しか知らない。
 2年間何気なく見てきた男子の制服を頭の中で重ねてみる。シンプルな白いシャツに黒いパンツのみのどこにでもある制服。それなのに、西原くんが着ていると考えただけでどこの学校よりもかっこよく見える。
 西原くんは暑がりかな?もう腕まくってるかな?
 いつも半袖の体操服から見えている私よりも焼けていて筋肉質な腕がシャツから出ているのを想像しただけで恥ずかしくなった。

 制服姿の西原くんを知りたい。

 でも、西原くんのクラスの女子は当たり前に知ってるんだよね。
 知らないのは私だけなんだ。
 そう思うと少し胸が痛くなった。

 私は胸の苦しさを誤魔化すように、いつもポニーテールにしている髪をブローしてストレートにアイロンをかける。今日は雨だからくせ毛が出てこないか心配だ。もうあまり時間はないけれど、今日だけは遅刻してもいいから可愛くしていきたい。私のことを知らなくていい。でも目が合うなら少しでも可愛くしていたい。
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