あなたを好きだった頃、
ーでも。
もう一度あの人の笑う顔が見てみたい。私の方を向いてほしい。私に気づいて欲しい。あなたが私の頭にこびりついて離れないから、私の気持ちは矛盾して、何故風に思うのかに戸惑った。
恥ずかしい。
あなたを見たい。
この2つの矛盾に答えが出るのには時間はかからなかった。
私はこっそり誰にもバレないようにあなたの方を向いた。どんな顔をしたらいいのかわからなくなったその時の顔は、きっと泣きそうな顔をしていただろう。
私の視界にあなたが入る。
その瞬間周りの景色がぼんやりと滲んで、貴方だけが私の中にはっきりと映し出された。その瞬間また私の鼓動が早くなって、それが苦しくて泣きそうになる。あぁ、これが切ないって感情なのか。今まで小説や漫画の中でしか見たことがなかったこの言葉の意味を、私は初めて理解した。
だけど、嬉しい。体がぽかぽかと熱くなっていくのを感じる。顔赤くなってないかな?と思うと恥ずかしいけれど、この恥ずかしさをずっと感じていたいと思った。
じっとしていられなくて、今すぐ思いっきりここから駆け出したくなる衝動。小学校の時体育が大嫌いで体育の前の授業の度にドキドキした。悪いことをして親に呼び出されたとき、怒られるかなってドキドキした。ピアノの発表会の出番が近づく度、緊張でドキドキが大きくなっていった。大嫌いなジェットコースターに乗っているとき、いつ落ちるかと考える度にドキドキした。
その時のドキドキと同じくらいドキドキする。今までこのドキドキが早く終わって欲しいと思った。でも、何かが違う。それと同じくらいドキドキしているのに、終わってしまうのが怖くて、ずっとこのままがいいと思っている。