あなたを好きだった頃、

 私、この人のこと…。
 そう思ったとき、あなたが私に気づいた。その瞬間、彼の顔が笑顔から普段の顔に戻って私の方を真っ直ぐ見る。

ー気付かれた。
 そう思った瞬間さっきの心地良さが弾けて苦しくなるから、視線を反らして気づいてなんかいないふりをした。もうあなたの方は見ていないのに、私の鼓動はどんどん大きくなっていく。その時はじめて、このドキドキが早く終わって欲しいと思う。
 どうしよう、変な人って思われたかな?
 そう思うと怖くてたまらなかった。このまま、あの人を見ているだけでいい。それだけで幸せだて思った。
  
 閉会式中そんなことを考えていると、もう閉会式は終わってしまっていた。さっきまで綺麗に整頓されていた列が一斉に崩れて、運動場は色々な声で溢れ返る。色んな色の声で混じった運動場の中を真っ直ぐに進んで、私は校舎の前に立った。
 ガラスの扉を開こうとした時、さっき知った切ないという感情がもう一度私の前にやってくる。ここをくぐればもうあの人を見ることも無いかもしれない。そう思うとまだここを潜りたくなかった。
「また会えるかな?」
 そう思いながらもう一度私は振り返った。後ろはもう人で溢れていて、さっきのあの人が何処にいるかなんかわからない。私はそれを残念に思いながら、「また明日会えるかもしれない」という小さな約束をした。

 初めてあなたを見たとき、
 「私もこの人みたいに、思いっきり笑える人になりたい」
 何故かそう思ったんだよね。
 初めて見たはずなのに、この人の笑顔には強さがある。きっと自分に辛いことがあってもそれを隠してこんな風に笑うんだろうな。って思ったの。私もこの人みたいに笑って、いつかこの人が辛いときに私が力になれたらって。だから強くなろうって、勇気が出てきた。
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