美男子の部屋に保護されました
店内は、白い壁にダークブラウンの腰板が貼られていて、各テーブルもカウンターも同じ色の木材で統一されていた。

パキラやポトスなどの観葉植物も多く、心安らぐ空間がそこにはあった。

私たちは、主人公の相手役がいつも座っていたという奥の席に、向かい合わせで座った。

テーブルの隅に立ててあるメニューは、茶色いクラフト紙でできた小さめのスケッチブックに手書きで書いてある。

そこに、お目当ての抹茶ラテを発見し、嬉しくなった私は、声を潜めて言う。

「ありました! 私、これにします。」

すると、宮原さんも微笑んで、

「じゃあ、俺はこれだな。」

とロイヤルミルクティーを指差した。

物語の中で、いつもロイヤルミルクティーを注文する男性に、ある時ヒロインが甘い物が嫌いでなければ…と、抹茶ラテを勧めるシーンがあるのだ。

宮原さんが2人分の飲み物を注文してくれて、届くまでの間、静かに会話する。

「由里子さんは、昔から本が好きだったの?」

宮原さんに聞かれて、私は小さい頃の事を思い出した。

「小学1年生の時、実は本を全然読まない子
だったんです。
その時、教室の掲示板に名簿が貼って
あって、1冊読むごとにシールを1枚貼って
いくことになってたので、みんな競うように
読んでたんですけど、私は昔からそういう
競争とか争いごとに全く興味がなくて、私
ひとりがシール3枚しか貼ってなくても気に
しなくて全然読まなかったんです。
そしたら、2学期の終わりの保護者との
懇談の時に、由里子さんは全然本を
読まないから読ませてくださいって先生に
言われてしまって。
私は本を読まなきゃいけない事を全然
知らなくて驚いたんです。
先生は『本を読んだらシールを貼れるから、
頑張って読もうね』と言ってたので、
シールがいらなければ、読まなくていいと
思い込んでて。
それから、シールはいらないけど本を読む
ようになったら、頭の中にアニメを
見てるかのように情景が浮かぶのが
おもしろくて、読書が好きになったん
です。」

「くくっ」

私の話を黙って聞いてた宮原さんは、突然笑い出した。
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