美男子の部屋に保護されました
「あれは、多分、半年くらい前かな。
店内の児童書コーナーを走り回ってた
5歳くらいの男の子が転んだんだ。
お母さんは下の子を連れてレジで会計を
してたらしくて、その場にいなくてね。
そしたら、今にも泣き出しそうな男の子の
前にしゃがんで、声を掛けた女の人が
いたんだ。
『泣かないんだ、偉いね。』って。
それを聞いた男の子は、泣くに泣けなくて、
一生懸命、泣くのを我慢してた。
そんな言い方もあるんだと感心してたら、
その人は、目の前に平積みしてあった絵本を
一冊手にとって、読み始めた。
男の子は、あっという間に話に引き込まれて
泣いてた事も忘れて目をキラキラさせてた。
それを見て、すごいなって、素敵だなって
思った。
それから、夕方、晴野店に行くたびに彼女を
探すようになって、毎日のように6時半から
7時くらいの間に来てくれることに気づいて
晴野店だけは、毎回その時間に行くように
した。
俺が見てるとは知らない彼女が手に取る本は
俺が好きな本と同じ物が多くて、それがまた
気になって…
そんな時、朝10時くらいに作家の訃報が
入って、各店に特設コーナーを作るように
指示した。
その確認に各店を回って、夕方晴野店に
行ったら、そこで泣いてる由里子さんを
見つけたんだ。」

宮原さんは、そっと私の髪を撫で、そのまま髪を指に絡めるように触る。

「だから、俺が今、どんなに幸せか分かる?
ずっと想いを告げることなく見続けてきた
由里子さんと、今、こうしていられる事が
どんなに嬉しいか。」

「宮原さん… 」

そんな風に思ってもらえてたなんて、知らなかった。

「あの… 、私… 、あの日、宮原さんに助けて
いただけて、本当に感謝してます。
その… 、今まで、男の人のことをこんな風に
好きになったことがなくて、どう伝えれば
いいのか分かりませんが、あの… 、
気づいたら、好きになってました。
優美にやめた方がいいって言われても
自分を抑えられないくらい好きです。
あの、自分で自分の感情を抑えられないのは
初めてで… 」

そこまで言うと、宮原さんに抱き寄せられた。

「嬉しいよ。
俺、由里子さんにもっともっと好きになって
もらえるように頑張るから。」

そう言って緩められた腕は、そのままうなじへと上り、唇に温もりが落とされた。

ん… なに? さっきと違う…

そう思った時、顎をそっと指で下げられ、暖かいものが入り込んだ。

「ん… 」

声にならない声が、漏れる。

初めてのことに、くらくらする。

でも……

ずっとこうしてたい…


私は、宮原さんの浴衣をそっと握った。

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