毒壺女子と清澄男子

景気がいいと言う割りに、物の値段は上がらないデフレ状態

物の値段が上がらなければ、当然それを製造販売している側にも皺寄せが来る

うちの社だって私が新卒で入社して数年後に人件費の削減を理由にして、バブル入社組を何百人単位でクビにした

皆が皆、いい年で子供がまだ成人しておらず学費や家のローンにと大変な年頃

『早期退職金なんて雀の涙だろ……』
『俺はどこで次働けばいいんだよ……』
『まだ子供が中学生だっていうのに……』

そんな嘆き声があちこちで聞こえて来て、自分の行く末を思った

どんなに会社に貢献したって、上に上がらなければ真っ先に切られる対象になる、女である私が上がれる保証は男のそれよりかなり低い……
まあ、それでも結婚していればどうになるか

と考えていた矢先

『ちょっと話があるんだ、うちに来てくれる？　』

付き合っていた彼氏、岩崎　晃(いわさき　あきら)に呼び出され、嫌な予感がしつつも仕事帰りに急いでアパートに向かって始まったのは別れ話

付き合っていた頃から互いの実家に何度も行っていたし、親とも仲良くしていた

だからいずれ結婚するだろうと思っていたのに理由を問い質しても『別れたい』の一点張りで埒が開かず、一時間が過ぎた頃

いきなりアパートの鍵が開いて、姿を現したのはストーンとした黒のワンピースを着た長い黒髪の女