毒壺女子と清澄男子
出勤の支度をしてゴミ袋を片手にマンションのエントランスに出たら、いつもゴミ収集日にカラス避けネットを持って警戒にあたっているオーナー夫婦に出くわした

これ幸いと隣室の深夜の物音について申し出る

「おはようございます、302の本郷なんですけど、あの、うちの隣の303に越してきた方が夜の11時過ぎに凄い物音を出していて」
「あらま! そうだったの。ごめんなさいねー」
「やっぱりあの兄ちゃん、入れるんじゃなかったよ、なんかさeスポーツとかやってるって言っててね、うちのネット回線がどうだかこうだか文句言ってて」
「eスポーツ、ですか」

職業を聞いてあの物音に納得した、が、このままでは迷惑千万だ

多分、今後も同じような音やコントローラーのカチャカチャという音を立てる事になるだろう

「よーく注意しとくわね」
「よろしくお願いいたします」

オーナー夫婦に頭を下げて出勤しようとした所、エントランスから両手に大きなゴミ袋をぶら下げた巨漢が現れる

頭には薄汚れたタオル、ゲーム名とおぼしきアルファベットを並べたTシャツ、ヨレヨレのハーフパンツを身に付けた巨漢はオーナー夫婦に頭すら下げず無言でゴミ袋をドサッと置いて再びエントランスへ引き返す

その様子を見てあたしは出勤の電車内で、ありとあらゆる不動産のサイトを巡る
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