毒壺女子と清澄男子
「本郷様は銀座の路上で、こちらのベラヴォード テヤンディ氏がランニングされていた所、衝突されたんです。で、テヤンディ氏が自ら抱き抱えられて、最寄りのこちらの病院へ運び込まれたと」
「それはどーも、で、今何時ですか? 」
「午後の4時です」

見るからに医者になる為の勉強しかして来なかったであろうガリガリな体を包む白衣の腕へ付けられたこれ見よがしにデカデカしいパテックナンとかの数百万円もする時計を見たドクターが告げたのは、絶望の時刻

あたしは今日のアポイントを全てすっぽかしてしまったのだ……

「お、お……今すぐかかかか会社へ」

ベッドから跳ね起き、腕の点滴チューブを引っこ抜き、いつの間にか着せられていたグレーの入院着のまま裸足で走り出そうとしたのだが、点滴の針が血管にしっかり刺さっていたらしく大量の輸液が針の先から、輸液で薄まった血がピューッと腕から吹き出す

「ちょっ! ナニコレ! ヤダ! 」
「うわーーーっ! ナース! ナース! 」
「オーマイガーッ! 」

慌てて駆け付けて来た顔もスタイルもモデル級の癖に力が強いナース数名により抑え込まれ、更に呼ばれた十数人のナースが血みどろの入院着を着替えさせ、点滴を再度挿入してベッド一式の交換と部屋の清掃を済ませた所で既に会社には連絡が行っており、アポイント先にも全て報せが行っていると言われた

更に実家の両親が駆けつけた所で、先ほどのパニック状態で数日程入院して精密検査を受けるように申し渡されたのだが……

あたしは何としても翌日、青梅の重要取引先に竹虎屋の栗羊羮と共に行かなければならない

さて、どうするか

自由を得る為に点滴を引っこ抜けば、さっきの噴水流血騒動間違いなし

かと言ってこのままガラガラスタンドを引いて病院からの逃走を図るには無理がある

こんな時は、アレだ
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