毒壺女子と清澄男子
早朝、警備員のおじさん以外誰も居ない会社へ出勤して更衣室のほぼ使っていない自分のロッカーを開けて常備してある着替えを取り出して着用

更に昨日用意出来なかった資料と神田さんからの指示メールをプリントアウトして、営業車へ乗り込んだ

後は青梅を目指して東京のど真ん中から23区を飛び出して車を走らせる

慣れない郊外の中、運転しながらメールにあった住所へたどり着いたのは午前10時

約束は11時だったので仮眠しようとしたのだが……その家の表札の先には緑に覆われた車など通れないほどに細い坂道があった

まさか、この坂道を上がらなければたどり着けないのか?

嫌な予感がする

しかし約束の時間5分前にはきちんと到着しなければならない

仕方ないので車を表札の脇へ設けられた駐車スペースとおぼしき場所へ停め、例の羊羮と資料、バッグを持ってヒールで坂を上る事にした

が、行けども行けども続く獣道

一体何でこんな不便な所に住みかを定めたのか家主の胸ぐらを掴んで聞き出したいけれど、一向に辿り着かない

チュンチュンチチチ……

頭上で小鳥が鳴き、脇からせせらぎの音が聞こえる中で上る事40分

旧大農家のような構えの家が見えて来た

いわゆるこれは都会の喧騒に疲れ、郊外の人里離れた場所で自然と共にのどかに暮らしたいという金持ちの道楽に違いない

そうだとしてもいくらなんでも住民すら苦労しそうな場所に家を建てなくてもいいじゃないか、と息切れを起こしながら家から少し離れた場所でメイク用ポーチの鏡で顔を見てメイク崩れがないかチェックをして汗をハンカチで、ヒールの汚れをウェットティッシュで拭い身仕度を終えて家同様に鈴の絵が彫り込まれた象牙色の古めかしいインターフォンを押す

ビィィーーーッ

スピーカーなど付いていないので中から人が出てくるまで待つこと数分

やっと出て来たのは、古い家に似つかわしくない人物だった
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