毒壺女子と清澄男子
「先程はどうも、先生はそのへん詳しくないんで代わりに僕が説明します」
「お願いいたします」

ボーダー君ことキヨちゃんは作業場の空きデスクへ設置してあるパソコンへやたらと長い体を折り曲げるようにして触り始め、何かのイラストを出す

それからプリントアウトをし、あたしの前にそれを置いてモニターとそれを見比べて欲しいと言い出したのだけれど、あたしは技術者ではなく営業だから何が違うのかよく分からないが、何度か目をイラストとモニターの交互にやるとどことなく色が違うような気がする

「色が微妙に違う、という事でしょうか? 」
「そうなんです! 特に青の発色が! あと、うちのスタジオで使っているワック社のパソコンと相性が余り良くないのでプリンターを替えたいと」
「分かりました、とりあえずこの画像のデータとプリントアウトしたこの紙を頂いてもいいですか? 持ち帰って技術部と相談致しますので」
「お願いします! 」

だけど今やマンガですらデジタルで入稿する時代、何でこんなにプリンターへこだわるのだろうか?

そのへんを掘り下げてキヨちゃんへ聞いて見れば
雑司ヶ谷先生の命令でアシスタント軍団が腕を磨く為、同人誌即売会で出している同人誌の発行に困るからだと言う

一応、プリンター業界に身を置く物としてマンガ業界について集めた知識からすると印刷所にそうした物は発注し製本させるものなのだけれど、どうしてわざわざ自前で印刷するのだろう? という疑問がわいた

「普通、印刷所に頼む物では? 」
「うちは『自給自足』が基本なんです、毎日の忙しいアシスト業務に励みながら自分達で原稿を描いて印刷して製本する、それを立派にやる事で一流の漫画家になれるんだと雑司ヶ谷が」

後で知った事だが、雑司ヶ谷大先生も大学時代の漫画サークルで白黒コピー誌を作り、それが編集者の目に留まってデビューを果たしたらしい

それもあってアシスタント軍団へ同人誌の発行を勧めるようになったそうだ
< 30 / 38 >

この作品をシェア

pagetop