毒壺女子と清澄男子
『ワタシ シンパイ シテイマス ビョウイン キノウ ニゲタ アナタ』

というスマホの自動翻訳機能をフルに使ったメッセージが届く

仕方ないので

『シンパイ イラナイ ゲンキ ワタシ』

と返信した後、昨日の今日で何かあってはいけないから早退しろという部長の制止を振り切り、例の大先生の件を相談しようと営業部を出て技術部へ向かう

その間にもテヤンディ氏からのメッセージが届いていたようだが、まるっと無視して二階にある技術部のドアを開けるなり、図面を広げて老眼鏡をくっつけるようにして眺めている田中部長の側へ駆け寄る

「おっちゃん、お願いがあるんだけど〜」
「おう、どうした? 」
「あのさぁ〜このイラストのカラー、特に青をね…」

大先生から預かった例のファイルをサッと田中部長の前に差し出そうとしたその時、背後から何者かが近寄る気配を感じて振り向けば、そこには青白い顔に今どき銀縁のやたらとエッジが立った六角形フレームの眼鏡をかけたマッシュルームカットの男が立っていた

こいつの名は赤羽と言い、ただでさえ理系が多く変人の多い技術部の中でも超が付くほどの変人

そいつがファイルに描かれたイラストを見るなり、生唾を飲み込む音が聞こえて来て思わず背筋が寒くなる

だが田中のおっちゃんは

「おー、赤羽かー。いいとこに来た、これちょっと見てやってくれよ、俺さぁ、今、新機種のメンテマニュアル作らないといけねーから」

そう言って再び図面へ視線を戻す

こうなるとアテにせざるを得ないのは赤羽だけ…

冗談じゃないと思ったが、渋々ファイルを差し出し中身を開けさせるとオタク眼鏡の奥にある目が光った
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