毒壺女子と清澄男子
ビルを出ようとしたその瞬間、どこからか黒いスーツを着た外人の集団が現れてあたしの体をドアの前に横付けされた真っ黒なリムジンへ押し込んだからだ

助けて! と叫び声を上げる暇など与えず車は急発進して、両脇をいかにも強そうな外人二人に囲まれて身動きが取れないままだけれど身に覚えが無い拉致に対して大人しく付き合っている暇は無い

「あんた達、何すんのよ! 」
「ナントカカントカ…ミスホンゴウ…ペラペラペラミスターティヤンディー…△☓○□アーハァン? 」

中学へ入学して以降、英語の勉強はした

しかし、今の時代と違ってあたしが学んだのは活字だけの英語でありヒアリングは強化されていない

よってこいつらが何を言っているのか訳が分からないが、出てきた名前から察するに例のティヤンディーが絡んでいるのは間違いなさそうだ

「また病院に連れ戻そうとしてるんでしょ、冗談じゃない! 全然あたしは平気だから! 早く下ろしなさいよっ! 」
「ペラペラ…ホワッ? 」

駄目だ、日本語が一切通じない…

一体どうすればいいんだろうと両脇を鋼鉄の固さの筋肉に挟まれ途方に暮れていると、銀座の景色が見えて来る

ああ、またあの病院へ連れて行かれるのか、今度こそ脱走は不可能だろう

もうこうなったら精密検査でも何でもしてみやがれ! と江戸っ子らしく開き直っていたらあの病院の前を車は通り過ぎ、到着したのは汐留に最近出来たばかりの高級ホテルの地下駐車場だった

そこで待ち構えていたホテルマンが用意した車椅子へ黒服軍団に持ち上げられるようにして座らされ、ガッチリ四方を囲まれたまま連行されたのは最上階ワンフロアを占めるロイヤルスィート

一体何をする気だと車椅子に座ったまま目の前の窓に広がる超大手広告代理店や放送局のビルを眺めていたら、リビングルームに通じるドアが開き、中から例のダンプカー外人テヤンディー氏と白衣を着た日本人らしき中年男性が目の前へ現れた
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