毒壺女子と清澄男子
で、こうした契約を取って悠々と帰社してみれば例のパートのおばちゃんがまたやらかしてくれていた

「だーかーらー、保守契約をしてないと出来ないのー」

受話器を片手に取引先と電話しているのは分かる、だけどタメ口ってどういう事?

主婦の趣味のサークルの仲間同士なら許される、が、これは仕事でおまけに取引先

しかもパソコンのモニターを見れば、あたしの担当先である超優良顧客……

こいつ……

何も言わずに自分のデスクへビジネスバッグを放り投げ、無言で受話器を強奪する

「恐れ入ります~担当代わりまして営業の本郷でございますぅー、ご無沙汰しておりますぅー。あの、何か不具合がございましたでしょうか? 」
『ああ、本郷さんね。去年導入した機材の調子が悪くてねぇ、で、ちょっと見て貰いたいんだけどさっきの事務の人? うちが保守契約してないって言ってて』
「いえいえいえ、こちらで御社とはきちんと保守契約しておりますーええー。すぐにサービスマンを伺わせますーはいー、私も駆け付けますのでご安心下さいませ」
『頼むよー納期が明日までの仕事だからー』

こうして無礼なパートの尻拭いをし、仕事を増やす羽目になったあたしに対し、自分の椅子に座ったままのおばさんは申し訳ないという顔などするはずもなく余計な事をしたなと言わんばかりの視線を浴びせて来る

こいつ、こいつだけは許せない

が、優良顧客対応のほうが優先だ

怒りを飲み込み、自分の席へ戻るなり契約書のファイルを最も信頼出来るエリカちゃんに渡す

「エリカちゃん、これで発注掛けてくれる? 」

が、ここでおばさんからクレームが入る

「池尻さんは保育園の保護者会があるから、今日は三時までの勤務です。私が代わりにやります」

取引先の情報をよく確認せずタメ口で対応した癖に、こういう時だけまともぶる……

「あのさぁ……」
「あ、あの本郷先輩、大丈夫です。私、すぐに出来ますから! 」

あのさぁ、余計な仕事を増やした癖にそのせいでエリカちゃんに仕事を振らなきゃいけなくまったのに、何考えてんの? 
あんたなんかに任せられるはずないでしょ! こっちがどんな思いをして契約を取ってきてるか分かってんのかい! 使えないダメパートの分際で!

という言葉は女神のようなエリカちゃんのお陰で腹の中の毒壺から出ずに済み、すぐに取引先最寄のサービス部門へ連絡を取って、交通違反寸前のスピードを出して優良取引先に駆け付ける事が出来た

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