毒壺女子と清澄男子
取引先では平身低頭で挨拶を済ませ、サービスマンが駆け付ける前に何か出来る事は無いかとジャケットを脱いでブラウスの袖を捲って業務用大型プリンターの前面パネルを開けて、格闘を始める

紙詰まりはー、無い

インク切れかも、いや残量は満タン

紙送りローラーに異物か? これもナシ

「本郷さん、いつも済みません」

ああでもない、こうでもないとチェックをしているあたしに対し、事務職の若い女の子が頭を下げて来る

こんな時は相手が同性であっても爽やかな笑顔を浮かべ、

「売って終わりじゃないですから、うちの会社は。困った事があったらいつでもお伺いしますよ」

という殺し文句を吐くのが営業の鉄則だ

最近はそれすら出来ない奴が多いので、この技は非常に効果的で女の子はわざわざ冷たいコーヒーを出してくれる

「本郷さんって本当に頼もしいですよねー、男子だったら絶対に彼女になりたいです」
「女で済みません、アハハ」

いいか女の子ちゃん、この話を会社の飲み会でするんだ

エクソンの営業さんは感じがいい、頼もしい!
素敵で惚れそうって

同席した上司とか社長がそれを聞いて、次の導入時もわが社の製品を選んでくれるんだから

< 6 / 38 >

この作品をシェア

pagetop