桝田くんは痛みを知らない
 そんなことになったら、お母さんを恨んでやる、なんて考えていたのだが――


「まあまあ」


 うちにやってきた桝田くんを見て、お母さんの目が輝いた。


「古都、こんなはやくに普段と違う格好してノブナガ連れてくから。どうしちゃったのかと思ったら」


 めちゃくちゃ怪しまれていたらしい。


「はじめまして、こんにちは。桝田義久といいます」


 あっ。

 桝田くんが敬語だ。


「マスダくん。増えるに田んぼの?」 

「いえ、米や酒の体積を計量する方の“桝”です」

「そう。桝田くん」

「古都さんとは、同じ高校に通っていまして」


 “古都さん”だって。へんなの。

 いつもコトリとか根暗オンナとか言うのにさ。


「古都の先輩?」

「同級生です。クラスは違うんですけど」
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