桝田くんは痛みを知らない
 言い終えたあと、桝田くんは、痛みを知らない分、怪我への恐怖は減るのかなとか。

 死に対する恐怖は少なくなるのかなって、感じたけれど。


 きっと、それは違う。


「わたし、思うの」

「なにを」

「桝田くんは。桝田くんの痛みを、感じてるよね?」


 他人がわかるものが、わからないことで、苦しんできたのだ。


「なんだそれ」

「たしかに。桝田くんは、足の小指をぶつけても、もだえないだろうし」

「へっちゃらだな。指がもげてても。しばらく気になんねーかも」

「熱いフライパンにうっかり触って慌てて冷やす、なんてこともないだろうけど」

「ねえよ。つーか。ノアからキッチンに近づくなって口を酸っぱくして言われてるな。小学生の方が料理の経験あんじゃねーの」
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