桝田くんは痛みを知らない
 タバコの火は、かなり高温だと聞いたことがある。


「ヤケド、したんじゃない?」


 熱さがわからなくても。

 皮膚は焼けただれてしまうよね?


「たしかに。700℃くらいあるから。下手すりゃ大ヤケド」


 その言い方だと、大事には至らなかったのかな。


「親指と人差し指の、第一関節の間の皮膚は。案外分厚いんだ」

「そうなの?」

「躊躇せずに、一瞬で消すのがコツ。まあ。真似するのはオススメしないけど、根性焼き作られるくれえなら、自分から傷作った方が数万倍マシだ」


 わたし。

 これ以上、このひとに、傷ついて欲しくない。


 桝田くんが、両手で自分の顔を覆う。

 どんな表情をしているかわからない。


「そんな俺でも。オマエが。アイツの。……宗田のモノになるかもって、思うと」


 もっと近くで、見たい。


「……死ぬほど。苦しい」
< 196 / 300 >

この作品をシェア

pagetop