桝田くんは痛みを知らない
 休み時間終了10分前のチャイムが校舎に鳴り響く。


「ヤバ。掃除、中途半端にしかできてない!」

「そんなの適当にしてろよ。オマエ以外のやつサボってんだろ」


 たしかに、最後まで誰も現れなかったけど。

 だから適当にしていい理由にはならない。


「……桝田くん、まだここにいるの?」

「悪いか」


 まさか堂々とサボる気なの?


「知らないよ、叱られても」

「叱られねーよ。ここの教師は俺に甘いから」

「なにそれ」

「成績さえキープしてりゃ、満足だろうし。そうでなくとも。腫れ物扱いされるだけだ」


 なんでそんなこと。

 ……寂しそうに言うの?


 ゴミ、集めた分だけでもチリトリでとって。

 さっさと教室に戻ろう。


 背を向けてカーテンをくぐろうとしたら、


「待てよ」


 グイッと、腕を引かれ。


「うわっ」


 バランスを崩し、倒れ込んだ先は――


「教えてやろうか」


 桝田くんの、うえ。


「なに……を」


 起き上がろうとするも、腰に手を回されていて、動けない。


 男の子、だ。

 広い胸も。

 大きな手も。


 のどぼとけも。


「キスしたくなる雰囲気の出し方」


 ――――低い声も。
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