桝田くんは痛みを知らない
 昔は、ここに来ると、わくわくしたのに。

 楽しかったのに。


「……やっぱり、かえるね」


 ――――苦しい


「お母さんは『行っておいで』って言ってくれたけど。明日、学校だし」


 マサオミくんに背を向け、ドアノブに手をかけたとき。


「汗をかけないって。どれくらい辛いのかな」


 穏やかな声で、マサオミくんが、囁いた。


「僕らにとって、汗は。どちらかというと不快なものとされているよね。だからこそ、汗ふきシートなんてものも売られているし。額に滲んでいれば、ハンカチでぬぐわずにはいられない。でも、必要だから、かくんだ。体温を一定に保つために」


 ドクン、と大きく胸が波打つ。

 ヨシヒサくんの話をされていると、わかったから。


「サウナみたいな場所に。たとえば。夏場の体育倉庫、とかさ。プールの更衣室みたいな。そんな場所に閉じ込められたら」


 ――――!


「どのくらいでダウンしちゃうんだろう。きっと、そんなにもたないよね。僕らでも熱中症。気をつけなきゃいけないもんね」
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