桝田くんは痛みを知らない
 司会者の隣で全体に指示を出しているマサオミくん。

 横顔を数秒見つめたあと、目をそらした。


 ステージでは男子生徒が秘密を暴露したみたいで盛り上がっている。


 あまり長居はできないなと

 会場に背を向けた、そのとき――


「あ、あの子」

「桝田くんのカノジョ」


 誰かが、わたしにそう言った。


 この1ヶ月のあいだ。


 ヨシヒサくんと多くの時間を過ごしていた。


 一緒に帰ったり。

 学園祭の準備がない日は勉強を教えてもらったり。


 休みの日、

 ノブナガの散歩に出かけたり。


 お母さんに、ヨシヒサくんの病気のことを話した。


 すると、


「そういうことなら。日中は避けた方がいいね」


 ヨシヒサくんとノブナガが一緒なら心配ないと、早朝や日の沈んだあとの散歩に出ることを許可してくれた。
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