桝田くんは痛みを知らない
 向かった先は――


「なんで俺。コトリとこんなとこ来なきゃなんねーの」

「仕方ないでしょ。いつまでもあそこにいられないから」


 近くのカラオケ屋だった。

 今日は来る気なかったのに。


 そうだ。

 今からでもえみるを呼べば、喜んで来てくれるかもしれないな?


 えみるに、メッセージを送る。


「ここなら、どんな話でもできるしね」

「初めて来たわ」

「え?」


 桝田くんを見ると、曲を入れる機械をタッチペンで物珍しそうに操作している。


「なるほど。これ使って曲を探すわけか」

「初めて……?」

「わりいかよ」

「いや。全然」


 だけど、意外というか。

 カラオケくらい小さい頃に家族で来たのになって思っただけで。


「あ!!」

「ンだよ」

「このまえ。掃除、ありがとう!」

「いつのハナシしてんだか」

「眠ってるとこ。……起こして、ごめんね?」

「今更すぎるだろ」

「でも。ちゃんと謝っておきたかったから」
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