桝田くんは痛みを知らない
 桝田くんは、全然こっちを見ない。

 コの字型のソファの、わたしの向かい側に座って、澄ました顔で操作を続けている。


「なんか部屋、暑いね。エアコンつけようか」

「そのへんは。コトリが調節して」


 桝田くんは暑くないのかな。


「じゃあ、つけるね。28℃くらいでいい?」

「任せる」


 ……任せる?

 好きにすれば、とか。

 勝手にしてろ、じゃなくて?


「サボってたわけじゃなくて。しんどかった、とか?」

「どうだっていいだろ」

「よくないよ。わたし、誤解してたなら。感じ悪かったなって」

「……あのときは。昼休み明けの授業が、体育だったから。どうせ出られないなら寝てようかなって」


 体育の授業受けてないって、本当だったんだ。


「つっても特別体調悪いわけでもなかったし。本来なら見学するなり自習室でプリント学習でもすべきところを、ただ、だりいから寝てたわけで。結局サボりには違いないな」 
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