桝田くんは痛みを知らない
「古都なら、渡せるかなって思ったのに」

「……わたしなら?」

「邪心がないというか。好き好きオーラが出てないから」


 いやいやいや。


「どうしてもっていうから引き受けたのに。そんな理由でわたしに頼んだの?」

「ほら、あたし、桝田くんの視界に入っただけで顔しかめられるし」


 逆になにしたらそんなにイヤがられるの?
  

「本人を目の前にしたら恥ずかしくて話せないって言ったの嘘だったんだ……?」

「嘘じゃないよ。あんなに綺麗な顔の男の子見たら、誰でも固まるよねー」


 たしかに、整ってるとは思うけど。


「いくら見た目が綺麗でも。心が綺麗じゃない」

「いいじゃん。ちょっとダークな方が」


 ちょっと……?


「いや、あれは、ちょっとどころじゃない」


 ラブレターを“くだらないもの”とか言う無慈悲な人間だ。

 お腹の中、真っ黒にちがいない。


「あーあ。結局、誰も近寄れないってことか。氷の王子様には」


 なにが氷の王子様だ。

 魔界の住人の間違いでは?


「王子っていうのは。こう、もっと華があってさ。優しくて。人望があって。頼れるひとのことだから!」

「宗田(そうだ)先輩みたいな〜?」


 …………!


「いつ告るの、古都」

「こっ、こ、告らないよ」

「えー? せっかく同じ高校に来たんだから。チャンス到来じゃん」
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