桝田くんは痛みを知らない
 自分から歩み寄ることが、できない。

 桝田くんはうつむきがちで、正面を向いていなくて。

 だけどこっちに歩いてくるから、自然と、わたし達の距離が縮まっていく。


 数秒後には視線がぶつかるかもしれない。

 そう思ったとき、ドキドキしていることに気がついた。
 

 だけど、そのドキドキは


「おはよー、桝田くん」

「学校休んでたけど、大丈夫?」


 胸騒ぎに、変わる。


 桝田くんの傍に、2人の女の子が駆け寄っていくと


「邪魔」


 桝田くんの吐いた声は、あまりにも冷たくて。


 目も合わせず、女の子たちを迷惑そうによけて通り過ぎる桝田くんは

 まさに“氷の王子さま”で――


「……っ」


 話しかけようって思っていたのに。

 萎縮、してしまう。


 桝田くんって。


 …………こんなに、遠かった?


 数秒後、

 桝田くんとわたしの視線が絡み合ったとき。


 桝田くんが口を開きかけたように見えたけど――


「……あ、」


 桝田くんが、足を止めることは、なかった。


 目線は、一瞬で、わたしから外れて。

 桝田くんが、通りすぎていく。
< 70 / 300 >

この作品をシェア

pagetop