桝田くんは痛みを知らない


 ――――古都


 もう、名前、呼んでくれないの?


 ――――イラナイ


 わたしのこと。

 嫌いに、なった?


 振り返ると、桝田くんの背中は、遠くて。


 追いかけることも

 名前を呼ぶことも、できなくて。


 立ちすくむことしかできないでいたら


「古都ちゃん」


 わたしの前で、あのひとが、立ち止まった。


「……マサオミくん」

「どうしたの。元気ないね」

「あ……。えっと」

「あれ。メイクしてる?」


 ――――!


「ご、ごめんなさい」


 えみるが、やってくれた。

 別に今日は目が腫れていたわけじゃないけど、やり方を教えてくれたのだ。


 ほんのりなので、帰ってから急いで落とせばお母さんにはバレないかな。


「なんで謝るの?」

「校則、違反。ですから」

「そうだな。立場的には、褒められないけど。僕個人としては――かわいいと思うかな」
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