芦名くんの隠しごと
怖くない、と言うのは嘘になる。
現に私は、彼が振り向いただけで動揺してしまったのだから。
けれど、質問してきた芦名くんの表情は、どこか寂しげで、なぜか胸が締めつけられて。
「ちょっと、怖いけど……怖く感じないようになりたいな、って思う」
うん、これは本当の気持ち。
芦名くんは怖いけど、悪い人じゃない……と思うから。
…ちょっと強引だけど。
「……やばいな、水上さん」
「え…?」
「本当、離したくなくなる」
そう言って私の頬に触れる芦名くんの手が、やけに冷たくて。
だけど、とても優しい手だった。
「……ふ、真っ赤」
「だって、キョリが近いんだもん…」
昔から、関わる男の人なんてほとんどいなくて。
お父さんは、私が小さい頃亡くなってしまったから、身近な異性といっても、せいぜいおじいちゃんくらいで。
しかも人見知りだから、同年代の男の子ともあまり話さなかったし。