芦名くんの隠しごと
「………花瀬伊織、か」
夏樹くんが、ハッ、と乾いたように笑う。
「夏樹くん、知ってる?」
「……………そんなの知ってどーすんだ」
さっきとは一転、声のトーンを落として呟く夏樹くんは、これまでに見たことがないくらいの無表情だった。
「……気になって」
「その名前、どこで知ったんだ」
「同じクラスなの」
「ってことは、康生とも同じクラスなのか」
「え?う、うん……」
私がそう言うと、彼は少し考えこんだ様子を見せ、やがてまた視線を私に戻した。
「……知ってる、って答えたらどうする」
──ドクン
悲しそうな碧色の瞳が、こちらに向けられる。
吸い込まれてしまいそうだった。