芦名くんの隠しごと



「………花瀬伊織くんって、誰?」


その質問は、してはいけなかったのかもしれない。


一瞬、目の前の綺麗な顔が崩れた───悪い意味で。


「………言わねえよ、言えるわけねえ。俺からは」


「え?」


「知りたいなら本人に聞け。ついでに、その答え、俺にも教えてくれ」


寂しいような、怒ってるような、なんとも言えない顔。


最近、この表情をたくさん見ている気がする。


「……あ、でも一つ忠告」


「………?」


「楓の前でその名前出すのはやめとけ。殺されるぞ。………俺でもな」


それは、楓さんにはタブーということ。


一歩間違えればどうなってしまっていたのか、考えるだけでも恐ろしい。


「──とにかく、そういうことだ。これ以上この話はやめようぜ。シャーベットは康生が食べたら教えてくれ。アイツより先に食べるのは気が引ける」


そう言って、さっきの声や表情は嘘だったんじゃないかと思ってしまうような様子で、孝也さんを探しに行ってしまった。


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