芦名くんの隠しごと
「おいーっす」
「……なんだ、藍か」
相も変わらず金色ボブの髪を揺らしながら入ってきた藍は、キョロキョロと周りを見回した。
「あれ、夏樹だけ?兄貴がいないのはいつものことだけど………野乃は?今日は康生が送ってくるの?」
「さあ?藍が頼まれてたんじゃねーのか」
「今日は違うよ?もしかして、兄貴かなあ」
「……楓と水上が二人って、ヤバくねーか」
「そう?野乃は怖がるかもしれないけど、兄貴はきっと何もしないよ?」
「そりゃあ、そーだろうけどさ」
なんて俺が答えてるのを聞いてるのか聞いていないのかはわからないけど、藍は「孝也さん、カフェオレちょうだい」なんて言っている。
楓が認めた相手の中でも、水上はたぶん最短レベルなんじゃないかと思う。
なにより───あの康生が、誰かに執着するなんて。
怖い反面、嬉しくもある。
幼なじみである俺だって、あんな化け物は手懐けられる気がしないのに。
たった数ヵ月で康生を堕とした水上は、ある意味誰よりも恐ろしい奴なんじゃないかと思う。