芦名くんの隠しごと
錯綜
*
カビの匂いで目を覚ました。
見慣れない場所。
床が目の下。つまり、転がされている。
手足が縛られていて、身動きが取れない。口は動くけれども、きっと叫んでも誰も気付かない………そんな場所。
なんでこんなところに、と考えて、記憶を辿った。
「(……そうだ、)」
たしか私は、また、花瀬くんと教室に残ってたんだ───二人きりで。
そのときは楓さんがいつもの場所まで送ってくれる予定だった。
けれど、楓さんは生徒会の仕事があるらしく、少し待っていなければならなかった。
それならちょうどいい、あの言葉の
───“裏切り者”だなんて言った花瀬くんの本心を聞こうと。
また、彼を引き留めて。
………そこからが思い出せない。
良くない頭をフル回転させるも、ただ頭が痛くなるばかり。
「………目が覚めたんですか、水上野乃さん」