芦名くんの隠しごと
「え……、」
「あ、びっくりした?」
「……ううん、そんなには」
「だよね」
あまりにあっけらかんと言うものだから、今のは聞き間違えだったんじゃないか、なんて思ってしまうけど……でもたぶん違う。聞き間違えなんかじゃない。
ただ、脈絡というものがないような気がした。
なんでこの流れで突然そんなこと言うの?
なんて口に出せる勇気、わたしにはない。
「本当はね、おれは野乃のそばにいる資格なんてないんだ」
そう言って芦名くんが切なそうに笑うから、また彼のことがわからなくなる。
楽しいのか、嬉しいのか、それとも寂しいのを誤魔化そうとしてるのか……なんとなくわかるような気もするけど、なんとなくわからない。
「でも野乃に隠しごとするのは、もうやめるって約束したから。ちゃんと話すから、最後まで聞いてほしいんだ」
少し俯いた芦名くんが、わたしの服の裾を掴む。
洋服越しに感じる芦名くんの手は冷たかった。