芦名くんの隠しごと
うつむく私をどこか心配するように夏樹くんが見ていたけど、そこまで気にする余裕は、私にはなくて。
「……そろそろ本当に危ないから、戻ろう」
芦名くんがそう口を開くまでの時間も、とても長く感じてしまった。
「そーだな。…水上は?」
「連れてくよ。ここまで来たら、たぶん勘付かれてると思う。…ここで一人になんかしたら、狙われる」
──ドクン
芦名くんの真剣な瞳が、それが嘘ではないことを示していた。
……私は本当に、もう戻れないらしい。
「…とりあえず。乗って、野乃」
“野乃”──。
優しく私の名前を呼ぶ声を聞いて、やっと私は安心できた。
“水上さん”なんて呼ばれちゃうんじゃないかって、少し怖かった。…自分から始めたことなのに。
「うん。…これ、こーやって被るの?」
さっき渡されたヘルメットを被りながら、正解なのか尋ねる。
「そう。合ってる」
そう言って芦名くんが微笑んでくれたから、安心する。