芦名くんの隠しごと
芦名くんの低い声を鼻で笑ってから、生徒会長は言った。
「…安心しなよ、冗談だから」
ぜんぜん冗談に見えなかったけど、今は心なしか、目もちゃんと笑っているように見える。
「……本気だったろ、お前」
「まさか。俺なんか、本気出した康生に10秒で負けちゃう。野乃ちゃんもごめんね」
「あ…いえ……その、芦名くんを大切に思ってるんだなって思った、ので大丈夫……だと思います…」
大丈夫です…と言いたかったけど、会長の方を見て眩暈がしてしまいそうになるくらい、彼は私のトラウマとなった。
「なーにそれ。変わってるね、野乃チャンって」
「は…はい……?」
私は怯えて芦名くんの後ろに隠れたまま。
……やっぱり、生徒会長は苦手かもしれない。
「じゃ、まあわかると思うけど、一応自己紹介しとくね。僕は若槻楓。康生の右腕かな」
「右腕…」
ということは、芦名くんは彼よりも立場が上ということになる。
こんな怖い人の上にいる芦名くんが、私を守るなんて言ってくれて。
少しずつ、事の大きさを理解してきて、とたんに怖気づく。