芦名くんの隠しごと



私がそう言うと、芦名くんは「それはよかった」と微笑んで。


あまりにも優しいその笑顔に、飲み込まれる気がした。


「俺も孝也さんに料理習おうかな」


「……人を殴った手で料理すんなや」


な、殴っ……!?


って、いちいち驚いてたらいけないんだよね。ここは“そういう”場所でもあるんだから。


でも、やっぱり芦名くんでも人を殴ったりするんだ……なんて考えると、少し胸が痛い。


「野乃を怖がらせちゃったじゃん、孝也さん。不用意にそういうこと言わないで」


「つっても康生、隠しとくわけにもいかねえだろ。お前はこっちとは切っても切れない関係なんだから」


「だーかーらー、そういうの」


そう言ってふくれる芦名くんは、ちょっぴり子供っぽくてかわいい。


「芦名くん、私、大丈夫だよ。びっくりしただけで、怖くなったわけじゃないから」


「そう?ならいいんだけど。でも、野乃がこういう会話に慣れるのって、それはそれで変な感じするな」


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