芦名くんの隠しごと
また、あの声が聞こえた。
しかも今度は、かなり近くにいて。
きっと、顔を上げれば目が合う位置にいるのだろう。
「ウチの学校の制服……、なんだ、俺の早とちりか。…ごめん、怖がらせて」
「…っ、」
優しい声が聞こえ、少しだけ安心して。
目元に溜まった涙を拭いて、顔を上げた。
「え…なん…、」
「……水上さん?」
「あ…しな…、くん?」
そこにいたのは、思いもよらない人で。
もしかしなくても、さっきの声の主は彼なのだろうか。
「覗き見なんて悪い子だね、水上さん」
「ち、違っ…」
覗き見なんてしてない。見ようとは思ってたけど、結局なにも見られなかったから。
私が得た視覚情報は、目の前に芦名くんがいるということ。それだけ。
「必死だね。冗談なのに」
そう言いながら、芦名くんは笑う。
やっぱり、さっきの声が芦名くんの声だっていうのは、何かの間違いなんじゃないかって思ってしまう。