芦名くんの隠しごと
ファーストキス
*
「水上さん、ちょっといいかな」
そう言って芦名くんに呼び出されたのは
──屋上。
昨日あれから、なんやかんやでみんなと話していたら、夜の11時を過ぎていて。
芦名くんは用事があったらしく、帰りは夏樹くんに送ってもらった。
「……ここまで来ればもういいよね」
バタン、と少し乱暴にドアを閉められたらここには、
──私と芦名くん、二人っきり。
「あの、芦名くん。鍵、なんで──」
持ってるの、と聞こうとしたところで、芦名くんが振り返った。
ドクン、と胸が鳴る。
彼はすでに、“人気者の芦名くん”の顔ではなく、翳りを持った顔をしていたから。
「……楓」
「あ、そうなんだ……」
無機質な声に反応するのに、少し怖気づいた。
温度を感じられない芦名くんは、やっぱり未だに少し怖い。
「野乃、これ」
音もなく近づいてきた芦名くんが渡してきたのは、
──鍵と、グシャグシャになった手のひらサイズの紙。