芦名くんの隠しごと
「……じゃあ、藍と野乃も問題ないみたいだし、俺は行くね」
「芦名くん、なにか用事あるの?」
「……うん、ちょっと。藍、野乃のこと襲ったらコロすよ」
……コロす、なんて。
冗談なのか本気なのかわからないトーン。
思わず身震いした。
女の子にこんなこと言うなんて、芦名くんはやっぱり──怖い人。
「襲わないしー!変な心配やめてよね」
だけど、それよりも。
あんな表情の芦名くんに「コロすよ」なんて言われて、平然と、冗談めいて返せる藍ちゃんの方が、ある意味怖い。
「……ならいいけど」
「遅れるよ、康生」
「わかってる。もう行く」
テンポのいい二人のやり取りが、なんだか夫婦みたいで、胸の奥がチクッとした。
仕方ないのに。
私と藍ちゃんでは関わってる時間が違うのだろうから、仕方ないって……頭ではわかってるはずなのに。
どうしようもないこの黒い想いに飲み込まれそうで、恐ろしくなった。