芦名くんの隠しごと



いつもなら、私が寝てる時間に帰ってくるのだって、少なくないのに。


「……今日は、ほら……」


「あ……」


お母さんが視線を向けた方を見て、私はやっと気が付いた。


──今日は、お父さんの命日。


私がとても小さい頃に亡くなってしまっているから、お父さんの記憶はほとんどないけど。


仏壇に飾られている写真の中のお父さんは、とても穏やかそうに微笑んでいる。


「……お父さん、きっと喜んでるよ。お母さんが早く帰ってきてくれて」


私がそう言うと、お母さんは嬉しそうに……だけどどこか寂しそうに笑った。


お父さんとお母さんは、誰もが羨むような理想の二人だったらしい。


私はお父さんのことは覚えてないけど、お母さんが好きだった人なら、あんな笑顔をする人なら、きっと素敵な人だったんだろうなって思う。


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