嘘つきの水槽
階段を降りる途中、スカートのポケットで携帯がバイブを鳴らした。


ガラケーなんて古めかしいとか言わないでほしい。


あのぽちぽちボタンは正義だ。


私は踊り場で一旦立ち止まってディスプレイを確認する。


『三好陵介』


なんだろう。


学校にいるなら直接言えばいいのに。


パスコードを打ってメールを開くと件名は“ごめん”。


『用事ができたから今日はパス。ごめん、埋め合わせはする』


陵ちゃんのアホ、と呟くと、私は返信メールを立ち上げる。


『パーゲンダッツ2個で手を打つ』


また手の中で携帯が震える。


『了解』


なんだ、やけに聞き分けがいいじゃないか。


ともかくこれでパーゲンダッツは私のものだ。


嬉しいはずなのに、ちょっと虚しい感じがした。


それは少し、陵ちゃんが私のことを倉橋と呼び始めた時の寂しさに似ている気がした。


< 6 / 19 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop